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東京地方裁判所 平成11年(ワ)7020号 判決 1999年7月19日

東京都渋谷区上原三丁目六番一二号

原告

社団法人日本音楽著作権協会

右代表者理事

小野清子

右訴訟代理人弁護士

田中豊

藤原浩

堀井敬一

東京都墨田区錦糸四丁目一〇番一四・三〇二号

被告

金奉美

主文

一  被告は、東京都墨田区江東橋三丁目一〇番一〇号YKビルニ階所在の店舗「スナック ポプラ」において、別紙「カラオケ楽曲リスト」記載の音楽著作物を、次の方法により使用してはならない。

1  カラオケ装置を操作し又は顧客に操作させて伴奏音楽を再生する方法

2  カラオケ装置を操作し又は顧客に操作させてカラオケ用のビデオディスクに収録されている伴奏音楽及び歌詞の文字表示を再生する方法

3  カラオケ装置を操作し又は顧客に操作させて伴奏音楽に合わせて顧客又は従業員に歌唱させる方法

二  被告は、別紙物件目録記載のカラオケ関連機器を、前項の店舗から撤去せよ。

三  被告は、原告に対し、金六八万四七三一円及び内金六五万二二八〇円に対する平成一一年四月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  被告は、原告に対し、平成一一年四月一日から被告が第一項記載の店舗において別紙「カラオケ楽曲リスト」記載の音楽著作物の使用を停止するまで、一か月当たり金一万八九〇〇円の割合による金員を支払え。

五  原告のその余の請求を棄却する。

六  訴訟費用は被告の負担とする。

七  この判決は、第一項、第三項及び第四項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  原告の請求

一  主文第一項、第二項及び第四項同旨

二  被告は、原告に対し、七八万五九〇七円及び内金七五万三四五六円に対する平成一一年四月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  当事者の主張

一  原告

1  原告は、「著作権ニ関スル仲介業務ニ関スル法律」に基づき、著作権に関する仲介業務をすることを許可された音楽著作権仲介団体である。別紙「カラオケ楽曲リスト」記載の音楽著作物は、原告がそれぞれの著作物の著作権者から著作権の信託的譲渡を受けて、その著作権を管理する音楽著作物(以下「管理著作物」という。)である。

2  被告は、平成八年一〇月二二日から、東京都墨田区江東橋三丁目一〇番一〇号YKビル二階所在の店舗「スナック ポプラ」(以下「本件店舗」という。)を経営している者であり、別紙物件目録記載のカラオケ関連機器を本件店舗内に設置した上、原告の許諾を受けることなく、カラオケ装置を操作して伴奏音楽を再生して(カラオケ用のビデオディスクに収録されている伴奏音楽及び歌詞の文字表示を再生することを含む。)、顧客又は従業員に伴奏音楽に合わせて歌唱させている。

3  本件店舗における管理著作物の使用状況は、次のとおりである。

(一) カラオケ機種 通信(DAM)及びレーザーディスク

(二) カラオケ種別 ビデオカラオケ

(三) 座席数 四〇席以下

(四) 標準単位料金(客一人当たりにつき通常支払うことを必要とされる税引き後の料金相当額) 五〇〇〇円以下

(五) 一日当たりの演奏曲数 一〇曲

(六) 一月当たりの演奏日数 二〇日

4  被告の右行為は、原告の管理著作物に対する著作権(演奏権、上映権)を侵害するものであり、これにより原告は次の損害を被った。

(一) 使用料相当額(平成一一年三月三一日まで)

原告の管理著作物を利用する者が原告に対して支払うべき使用料は、原告が文化庁の認可を受けて定めた「著作物使用料規程」によるとされている(著作権ニ関スル仲介業務ニ関スル法律三条)。右規定によると、本件店舗のような社交場において管理著作物を演奏・上映する場合の使用料は、包括的使用許諾契約を結ばないときは、一曲一回の使用料によるものとされ(第二章、第二節5「社交場における演奏等」)、本件店舗の営業形態には、その別表15が適用になる。右規程の定めるところにより計算した本件店舗における使用料相当額は、一曲一回当たり九〇円、一か月当たり一万八〇〇〇円(九〇円×一〇曲×二〇日)であり、本件店舗の営業開始日から平成一一年三月三一日までの使用料相当額は、五五万二二八〇円(平成八年一〇月分は日割り計算による。消費税相当損害金を含む。)となる。

(二) 使用料相当額(平成一一年四月一日以降)

右(一)の規程によれば、平成一一年四月一日以降本件店舗における管理著作物の使用が停止されるまでの間の使用料相当額は、一か月当たり一万八九〇〇円(消費税相当損害金を含む。)である。

(三) 遅延損害金

右(一)の使用料相当額は、不法行為による損害賠償債務であり、侵害行為の日から遅滞に陥るので、各月分につき翌月一日から平成一一年三月三一日までの民法所定の年五分の割合による遅延損害金を算定すると、三万二四五一円となる。

(四) 弁護士費用

原告は本件訴訟の提起を弁護士に依頼せざるを得なかった。その費用の額は、二〇万一一七六円が相当である。

5  よって、原告は被告に対し、著作権侵害に基づき、本件店舗におけるカラオケ装置を使用しての管理著作物の演奏(歌唱を含む。)及び上映の差止め、別紙物件目録記載のカラオケ関連機器の撤去、並びに、前項記載の使用料相当額、遅延損害金及び弁護士費用についての損害賠償(平成一一年三月三一日までの使用料相当額及び弁護士費用につき、訴状送達の日の翌日以降の民法所定の遅延損害金を含む。)を求める。

二  被告

1  右一の原告の主張のうち、2並びに3(一)ないし(四)及び(六)の事実は認め、3(五)の事実は否認し、1及び4の事実は知らない。5は争う。

2  被告は、平成一一年五月二九日限り、本件店舗の営業を廃止した。

第三  当裁判所の判断

一  原告の主張のうち、2並びに3(一)ないし(四)及び(六)の事実は、当事者間に争いがなく、証拠(甲三ないし五)及び弁論の全趣旨によれば、1、3(五)及び4(一)ないし(三)の事実を認めることができる。

二  右によれば、被告が本件店舗においてカラオケ装置を操作して伴奏音楽を再生するなどの方法により管理著作物を使用した行為は、原告の著作権を侵害するものであると認められる。これに対し、被告が本件店舗の営業を廃止したとの事実は、これを認めるに足りる証拠がない。

したがって、原告は被告に対し、著作権法一一二条一項によりその差止めを、同条二項によりカラオケ関連機器の撤去を求めることができ、また、次項のとおり損害賠償を請求できる。

三1  原告は被告に対し、同法一一四条二項により、その著作権の行使につき通常受けるべき金銭の額に相当する金額につき損害の賠償を求められるところ、証拠(甲三ないし五)及び弁論の全趣旨によれば、(一)平成一一年三月三一日までの使用料相当額、(二)同年四月一日以降の使用料相当額、及び、(三)右(一)についての遅延損害金として原告が請求する金額は、いずれも相当であると認められる。

2  原告は被告に対し、民法七〇九条により、被告による著作権侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用につき損害賠償を求め得るところ、本件における侵害行為の態様及び審理の経過に照らすと、その額は一〇万円と認めるのが相当である。

3  したがって、原告の損害賠償請求は、右の限度で理由がある。

四  よって、訴訟費用の負担につき民訴法六一条、六四条ただし書を適用して、主文のとおり判決する(なお、主文第二項及び第六項に係る仮執行宣言の申立てについては、相当でないので、これを付さないこととする。)。

(口頭弁論の終結の日 平成一一年七月一三日)

(裁判長裁判官 三村量一 裁判官 長谷川浩二 裁判官 中吉徹郎)

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